ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Adam Foulds の "The Quickening Maze"(1)

 ぼくは風邪で、パソコンは何だか知らない原因で絶不調。思い切ってパソコンを買い換えたものの、ぼくの頭と身体はリセットできない。…グチはさておき、予定よりずいぶん遅れてしまったが、今年のブッカー賞最終候補作のひとつ、Adam Foulds の "The Quickening Maze" を何とか読みおえた。いつものように、まずレビューを書いておこう。

The Quickening Maze

The Quickening Maze

The Quickening Maze: A Novel

The Quickening Maze: A Novel

[☆☆☆] 19世紀のイギリスの詩人ジョン・クレアがいちおう主人公ということで、かなり散文詩を意識した構成、文体だが、この「詩の小説化」の試みは必ずしも成功していない。舞台はロンドン郊外の精神病院で、入院中のクレアやほかの患者、院長とその家族、看護士、さらには、有名な詩人のテニスンなどが登場、それぞれの視点から各エピソードが断片的に綴られていく。クレアは詩を口ずさみ、近くの森でジプシーたちとたわむれる一方、妻への思いが示すように、正気と狂気のはざまにある心の迷路をさまよっている。これに加えて院長が事業に乗り出したり、その娘がテニスンに恋をしたり、女患者が天使と出会ったりしながら、それぞれ「心の迷路」を彷徨。各人物の孤独と悲哀が伝わってくるが、詩的で象徴的な描写が多すぎて説明不足、散漫な構成になっている。小さな断片がいくつも織りまぜられる中、クレアが「いちおう主人公」として踏みとどまっているが、主筋を支えるべき求心力をもつような存在ではない。英語的には時代を反映した古風な表現が目立つが、決して難解というほどではない。