ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Sarah Waters の "The Little Stranger"(3)

 昨日の日記を読むとずいぶん辛口だし、われながら、どこの何様だと言いたくなるようなエラソーなことを書いてしまった。同じゴースト・ストーリーでも、たまたま先月読んだ Karen White の "The House on Tradd" にはかなり甘かったが、ではあちらが「解くに値する謎」を提示していたかというとそんなことはない。その時の気分次第で、何だかいい加減な印象批評ばかり並べている。
 弁解になるが、あちらは通俗的なゴシックロマンながら、登場人物同士の掛け合いが「丁々発止、往年のキャサリン・ヘップバーンケイリー・グラントを思わせ」るなど、いろいろな工夫がほどこされているおかげで、「痛快無類、最後はぐっと胸に迫るものさえ感じさせ」、「21世紀の現代でもいまだ幽霊死せず!」と叫んでしまうほど「上々の仕上がり」。要は、その謎が人生の根本問題にからんでいなくても、エンタテインメントに徹することによって優れた作品となっているわけだ。http://d.hatena.ne.jp/sakihidemi/20091012
 同じくゴシックロマン風の Kate Morgan の "The Forgotten Garden" にもぼくは甘かったが、あれはあれでまた舞台や話芸がすばらしく、しかもテーマそのものが「物語全体のパワーを生みだす源泉」となっていた。要は読者を楽しませるサービスに徹していたわけで、それゆえ人生の問題を深く追求した作品でなくても全然気にならなかった。http://d.hatena.ne.jp/sakihidemi/20090328
 それにひきかえ、サラ・ウォーターズのほうは、登場人物の性格をじっくり練り上げ、物語の背景を緻密に描きこむなど、かなり文学の香り高い作品作りを心がけている。その点は大いに買えるのだが、では本当に文学性が高いかというと少なからず疑問がのこる。エミリ・ブロンテのように、ゴシックロマンを通じて「現象の奥に潜む恐ろしい真実」を掘り起こそうとはしていないからだ。つまり、こちらは文学としての徹底度が足りない。いやしくもブッカー賞の最終候補作なのだから、それくらいの不満は述べてもいいだろう。
 …今日は何となく、小説に対するぼくのスタンスの話になったようですな。