ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

"Brooklyn" 雑感(1)

 年末が近づき大忙し、この土日も「自宅残業」に追われたが、Colm Toibin の "Brooklyn" を少しずつ読みはじめた。今年のブッカー賞候補作の一つで、たしかガーディアン紙だったと思うけど、「ロングリストが発表されたときは、これが受賞するものと思った」という記事を読んだことがある。残念ながらショートリストには残らなかったが、今度はコスタ賞の長編部門賞の候補作となり、また、アマゾンUKの年間ベスト10にも選ばれている。
 コルム・トビーンといえば、ぼくは今年の8月に2004年のブッカー賞最終候補作 "The Master" を読んだばかり。同じ作家のものは原則的に1年以内には読まないようにしているので、本当はもっと後回しにしたかったのだが、これはどうやらコスタ賞の部門賞どころか最優秀長編賞を取りそうな気がする。デカサイズだがペイパーバックも出ていることだし、とにかく受賞前に読んでおかないと、と思って取りかかった。
 まだ第1部と少ししか読んでいないが、これはいい作品だ! 舞台は1950年代初期のアイルランドの田舎町で、第2部からニューヨークの話になる。貧しい家に育った娘が故郷ではろくな仕事にありつけず、町を訪れたアメリカ人神父の勧めで渡米。…と、こんなふうに要約すると何の変哲もない話のようだし、実際、およそ劇的とは言えない展開で内容的にもごくふつう…それなのにクイクイ度は抜群。時間があれば一気に読み進むところだろう。
 ひとつには、主人公の娘とかかわる主な人物――母親や姉、兄、親友、仕事先の店の女主人、渡航の際に同室となった女などの「出し入れ」がうまく、それぞれ集中的に登場したかと思うと、すっと退場する。そのふれあいがもちろん各エピソードを形成し、流れるようにつながっていく。また、折々の娘の心情も手に取るようにわかる。家族との別れのつらさ、馴れぬ船旅の苦労、初めての土地で味わう孤独と不安…。こう書くと、ますますありきたりの話のようだが、ひるがえって、こんな展開でクイクイ読めるところがすばらしい。正確にはアイルランド文学だが、いかにも英国小説らしい味わいで、その伝統をトビーンがよく受け継いでいることが実感される。早くヒマになって、どんどん先を読みたい…。