ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

"Brooklyn" 雑感(2)

 今週は超多忙の毎日で家に帰るとグッタリ、おかげでこの本を手に取るのも電車の中だけだったが、それでも何とか半分過ぎまで読み進んだ。
 印象は前回とほとんど変わらず、変わったのは、本書のキャッチコピーを思いついたことくらい。題して、「タネも仕掛けもない正統派移民小説」。ううん、ヘタクソだなあ、これではとても売れません。それに、まだ途中だから、本当に「タネも仕掛けもない」かどうか…でもたぶん、ないだろう。
 神父の紹介でブルックリンで部屋を借り、衣料品店で働きだしたアイルランド娘だが、やがて家族が送ってきた手紙を読んでホームシックにかかる。案じた神父は何かと手配、娘に教会のクリスマス・パーティーを手伝わせる。そこで登場した歌手が娘の手を取り…。
 が、歌手はあっさり退場。ホームシックのあたりから、次は必ずロマンス篇になるはずだとわかるので、それがいつ、どんな形で訪れるのかと楽しみにしていると、第3部に入って今度は、娘が簿記の勉強に通いだした大学の夜間講座の講師が登場。これがロマンスの相手かと思ったら、またもや空振り。なかなか気を持たせますね。
 やがて娘は教会主催のダンスパーティーに顔を出し、そこでやっと真面目な好青年と出会う。何だか筋書き通り、ステロタイプもいいところの展開だが、それがまったく気にならない。ひとつには、主人公の娘の人徳によるところが大きいからで、何しろアイルランドの田舎町に生まれ育った娘は純情そのもので家族思い。そんな娘が異郷でホームシックにかかり、同居している間借り人たちに気を遣い、仕事のことで苦労しているうちに、ようやくいい相手に巡り会うのだから(これからひと波乱ありそうだけど)、つい応援したくなってしまうのだ。そんな感情移入も結局、人物造形がしっかりしている証左。まっこと、「タネも仕掛けもない正統派移民小説」ですなあ。