ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Jeannette Walls の "Half Broke Horses"(1)

 ニューヨーク・タイムズ紙が選んだ今年の最優秀作品のひとつ、Jeannette Walls の "Half Broke Horses" を読みおえた。さっそく、いつものようにレビューを書いておこう。

Half Broke Horses

Half Broke Horses

[☆☆☆☆] 一読、これは元気が出る小説だ! 主な舞台は20世紀前半、テキサスとアリゾナの牧場。主人公リリーは女だてら荒馬を乗りこなし、拳銃片手に男どもと対決、さてはプロペラ戦闘機で大空へ。数々の試練を不撓不屈の精神で切り抜けるタフネスぶりは感動もので、これぞまさしく現代版、女性版西部劇である。各章の冒頭にリリーや家族の写真があり、彼女が実在の人物で、本書の内容もどうやら実録らしいとわかるが、たしかにここには事実(と推測されるもの)がもたらす説得力、迫真性がある。が、自然との闘いや人間同士の争い、男女のからみ、家族のふれあい、リリーが教鞭をとった教室の風景、単身馬に乗って進む荒野の旅など、断片的なエピソードを巧妙につないでいく話術も光り、小気味よいテンポは明らかに小説ならではの特色。その筆運びにどんどん引きこまれるうち、幼い少女時代から孫が誕生するまでのリリーの波乱に富んだ人生が記録映画でも観ているように浮かびあがる。都会生活の経験もあるが、基本は大自然の中で生きる意志堅固で忍耐づよい、ときに厳しい野生の女。アメリカ人には懐かしくてたまらないはずの原風景が広がる中、リリーのタフな生き方はひ弱な現代人に活をいれるものである。難易度の高い語彙も散見されるが、何しろテンポのいい英語で読みやすい。