ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Petina Gappah の "An Elegy for Easterly"(1)

 昨年のガーディアン新人賞(The Guardian First Book Award)受賞作、Petina Gappah の "An Elegy for Easterly" を読みおえた。いつものようにまずレビューを書いておこう。

An Elegy for Easterly

An Elegy for Easterly

  • 作者:Gappah, Petina
  • 発売日: 2009/12/03
  • メディア: ペーパーバック
[☆☆☆★★★] ジンバブエ各地を舞台にしたエスニック色豊かな短編集だが、同時に、どこの国の現代人にも当てはまる普遍性をも兼ねそなえた点が秀逸。民族色としては、独立戦争からムガベ大統領政権下の現在にいたるジンバブエの歴史もふくまれ、極端なインフレや貧困、人権抑圧、権力者の欺瞞と腐敗、部族差別などへの風刺が鋭い。そこには「心の奥でしか真実を語れぬ」人々の悲痛な叫びも聞こえる。表題作は、ある歴史的事件に巻きこまれた女性の悲惨な運命を描いて凄絶。一方、上記の政治的・社会的矛盾を背景としながら、夫婦や兄妹、親戚同士などの対立と和解、すれ違い、さらには、個人の夢が消えたときの絶望感といった人生模様が、厳しい現実とは裏腹にコミカルかつ力強いタッチで綴られる。ネット詐欺のように、思いのほか現代的な設定の話も多い。締めくくりはなんと、〈ホテル・カリファルニア〉でコンドームを盗まれる笑い話。これひとつとっても作家としての心意気、タフな精神を感じさせる現代の悲喜劇集である。