ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Petina Gappah の "An Elegy for Easterly"(2)

 小説や映画のメリットのひとつは、現実に訪れる可能性がきわめて低い場所でも行った気分になれることで、本書の舞台ジンバブエも、これを読まなければまず遠い国のままだったはず。ましてその歴史など皆目不明、ネットで検索してから知ったかぶりで書いたのが昨日のレビューという次第。元はローデシア共和国とのこと、ぼくにはそちらのほうがなじみ深い。
 したがって、ここに出てくる彼の国の歴史や現実が事実そのものかどうかを判断する力はないが、それでもざっと調べたかぎり、「極端なインフレ、貧困、人権抑圧、権力者の欺瞞や腐敗、部族差別」といった状況は、たぶん本当なんだろうなという気がする。大統領の偽善や公式記録の虚妄をあばいた第1話を読んだとき、ああ、これはかなり暗い短編集かも、と思った。第2話の表題作も印象は同じ。
 ところが、巻が進むにつれ意外や意外、内容そのものは暗くても「コミカルで力強いタッチで綴られる」話が続出し、厳しい現実にもめげずタフに生きる人々の姿が次第に伝わってくる。レビューでもふれた最後の笑い話では、ぼったくりにいそしむ悪徳警官が登場して劣悪な社会状況が示されたのち、寝る前に装着していたコンドームが目をさますとどこにもない…というケッサクな「事件」が発生。場所はなんとホテル・カリフォルニアということで、主人公ともども、ぼくの耳にはイーグルスの名曲が鳴り響いてゴキゲンな気分だった。

ホテル・カリフォルニア

ホテル・カリフォルニア

 第11話もいい。アメリカ帰りのプライドの高い従姉があちらでの生活をウソで塗り固め、それがバレるのを恐れてジンバブエを脱出すべく、主人公の「私」にパスポートの偽造を依頼する。そんな従姉と私がロンドンで再会したとき…。「政治的、社会的な矛盾…を背景としてうまく活かしながら、…親戚同士の対立と和解にまつわる心の痛み、すれ違いの悲しさ」を描いた作品だが、主人公は決して落ちこんでいない。そこに救いがある。
 「あとがき」の冒頭に初出の雑誌などが紹介されているが、もしかしたら本書の各短編は発表順に並んでいるのかもしれない。次第に圭角が取れ、より完成度の高い作品が提示されているように思う。それは「泣きたくなるような現実を笑い飛ばす」タフな精神の確立とも言えるのではないだろうか。