ニューヨーク・タイムズの Trade Paperback 部門ベストセラー(今検索すると第4位)、Janice Y.K.Lee の "The Piano Teacher" に取りかかった。去年の初めだったかアマゾンUKでもベストセラーになっていたが、星の数があまり多くなかったのと(現在3つ半)、そのうちリストから消えてしまったので(現在ペイパーバック版が614位)、ほとんど忘れかけていたところ、去年の11月ごろからNYタイムズのリストに載るようになったので入手した本である。
第1部は1952年と同41年の香港が舞台で、基本的には恋愛小説だ。52年のほうは、夫の転勤で香港に着いたばかりのイギリス人女性 Claire が中国人の娘にピアノを教えているうちに、娘の家おかかえの運転手でイギリス人の Will と不倫関係に。一方、41年の話では、Will は中国人とポルトガル人のあいだに生まれた Trudy の猛烈なアタックを受け、関係をもつ。Trudy は天衣無縫というか陽気で活発な社交界の花形。二人は楽しい日々を送っていたが、次第に戦争の影が濃くなり…。Claire は Will に夢中だが、Will のほうはさほどでもなく、何やら心に深い傷のある様子。それはどうやら、Trudy とのことが関係しているらしい。
…ざっとそんなラブロマンスをノンキに楽しんでいたが、第2部に入ると様相は一変。41年のほうに話が絞られ、太平洋戦争の開戦直後、香港で日本軍が行なったとされる略奪行為、蛮行の数々がリアルに紹介される。金品を強奪したり、病院の看護婦もふくめて中国人の女を片端からレイプ、妊婦の腹を割いて胎児を引きずりだしたり…。ちょうど第2部の半分まで読んだところだが、まだまだそんな話が続きそうで気分が悪くなる。
ぼくは例によって不勉強で、そのあたりの史実はさっぱり知らないが、これだけリアルな描写を見ると、この Janice Y.K.Lee という香港在住の中国人作家が何らかの史料を元にして書いていることは間違いないだろう。巻末にインタビュー記事があるので、もしかしたら出典が示されているかもしれない。いちおうネットで検索したところ、『日本軍は香港で何をしたか』(謝永光、社会評論社)という本も出ている。「日本軍の蛮行を告発したもの」だそうだが、その内容に異論があることもネットには載っている。
…まずいなあ、コメントの書きこみができるブログなら炎上間違いなしの話題になってしまった。ぼくの最大の関心はあくまでも、本書がウェル・メイドな小説かどうか、という点にあるのだが、上の問題を避けて通れないのも事実だろう。まあ、まだ読了していない今の段階としては、巻末で史料が提示されていることを願うばかりである。