ニューヨーク・タイムズ紙の trade paperback 部門ベストセラー(現在第4位)、Janice Y.K.Lee の "The Piano Teacher" をやっと読みおえた。 さっそく、いつものようにレビューを書いておこう。
[☆☆★] 戦争が生んだ愛の悲劇と、その悲劇的現実にふれることによって大人へ成長した女性の物語。第1部は太平洋戦争前後の香港が舞台で、中国人の少女にピアノを教えはじめたイギリス人女性の不倫話と、相手の男が戦前、
社交界の花形と恋に落ちた話が交互につづく。冒頭など光るシーンがいくつかあり、自由奔放な花形の発展ぶりにも魅せられるが、筋立てや性格・心理描写にさほど目新しい点はない。第2部は
戦争犯罪の告発小説で、開戦直後、日本軍が香港で行なったとされる略奪行為、蛮行の数々がリアルだが戯画的なまでに描かれる。女性は片端からレイプ、妊婦の腹を割いて胎児を引きずりだし、民間の西洋人を強制収容、劣悪な環境のもとで拷問虐待。
日本兵はすべて鬼畜獣人扱いで、その犠牲になった人々だけ心理描写の対象となっている。戦中戦後の話が交錯する第3部はけっこうサスペンスがあって面白い。相変わらず日本軍の蛮行を紹介しつつ、占領中にどんな愛の悲劇が起こったか、ミステリでも解くように進行。ただし、要は戦争によって引き裂かれた恋人たちの悲劇ということで新味はなく、そもそも戦争がなぜ起きるのかといった本質的な追求もない。男の回想が示すように、感情に訴える手法が目立つ。大人に成長する女性の物語のほうも、女の揺れ動く心理などはよく書けているが、タイトルになっているのに愛の悲劇のオマケという印象を否めない。英語は標準的でとても読みやすい。