ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Colum McCann の "Let the Great World Spin" (2)

 ぼくは原則的に同じ作家の作品を1年以内には読まないようにしているが、その理由は、いくら勘の鈍いぼくでも立て続けに読むと、さすがにその作家のパターンが見えてくるからだ。それよりは未読の作家にどんどん取り組み、旧知の作家でも久しぶりに読むほうが新鮮みがあって楽しめる。あ、昔は今日もアイリス、明日もマードックなんて時代もありましたけどね。
 とはいえ、例外のない原則はなく、Colum McCann の本を読むのは1ヵ月ぶり。本書が去年、全米図書賞を取ったとき、早々にペイパーバック化されることがわかっていたので、その前にひとまず、なぜか書棚にあった20年近く前の旧作短編集 "Fishing the Sloe-Black River" を読んでみた。で、次にこの本を手に取ったわけだが、ううむ、個人的な趣味としては、こっちから先に読んだとしても旧作のほうに惹かれたんじゃないかな。
 雑感にも書いたとおり、最初は「テーマそのものも…さっぱり不明」だったが、第2部に入ったところで遅まきながら気がついた。これを長編として読むからピンと来ないのであって、「実質的には短編集」と考えれば何のことはない、"Fishing...." と同じじゃないか。おたがいに多少関係のある人物が輪舞方式で登場し、輪の中心に綱渡り事件がある構成にはなっているものの、それぞれのエピソードが各人の人生の決定的な瞬間を描いたもの、という点では旧作とまったく変わらない。事実、こんな言葉も出てくるくらいだ。....you live inside a moment for years, move with it and feels it grow, and it sends out roots until it touches everything in sight. (p.285)
 もちろん、「喪失をテーマにすえたエピソードが多く、行間からふと漂う静かな哀感に心を打たれる」ことは確かだが、いかんせん短編集を読んだときの記憶がよみがえり、ああ、あっちのほうがもっとインパクトがあったなあ、などと思ってしまう。去年のベスト作品のリストをながめても、本書はニューヨーク・タイムズ紙やタイム誌、パブリシャーズ・ウィークリー誌などからは無視され、わずかに米アマゾンで選ばれている程度。とはいえ、本書が Colum McCann は初めて、という読者なら十分満足できることだろう。
 少しだけネタをばらすと、最後の第4部を読みだしたとき、ニューヨークへ向かう飛行機に搭乗する話が出てきたのでゾクっとした。え、これはもしや…あわてて冒頭を見かえすと、2006年10月。ひょっとしたら McCann の頭には、2001年9月に起きたあの大事件で本書を締めくくるアイデアがちらついたかもしれない。しかしそれではあまりに突出しすぎて、最後のエピソードが輪舞のひとつではなくなってしまう。…と思ってそのアイデアをボツにしたのかどうかはわからないけれど、ツインタワーにからんであの事件にまったくふれないのは、ちょっと残念な気もする。三文小説の読みすぎかな。