ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

"Lark & Termite" 雑感(2)

 前回からずいぶん時間がたってしまったが、職場の「農繁期」が佳境に入り、土日も今週もずっと仕事に追われ、読書はほとんどカタツムリくん状態。電車やバスの中でちらちら読むのが精一杯で、われながら情けないほど進まない。
 とはいえ、受ける印象はまったく変わらない。要するに、すべて定石どおりの展開なのだ。たとえば、言葉も行動も不自由な障害者の少年を中心にすえたくだりでは、あらゆる描写が一段と感覚的になり、その意味でかなりインパクトを受ける。みずみずしい感覚が脈打ち、こちらの五感に訴えてくる。それはもう見事な筆づかいなのだが、初めてお目にかかる文体ではない。そこで多忙のおり、少しずつ読んでも同じだな、とつい思ってしまう。
 それから、二人とも魅力的な姉妹が登場するのだが、妹のほうは美人で自由奔放…とくれば、それだけでもう、ある一定のストーリーを思い浮かべる。で、本書はその「定石どおりの展開」が続き、それはそれでとてもウェル・メイドなのだが、反面、型破りな面白さはない。身重の妻を残して朝鮮戦争に従軍した兵士が重傷を負い…これも緻密な描写に支えられているが、今のところやはり意外性には乏しく、「少しずつ読んでも同じだな」ということになる。
 ただし、非常に秀逸と思われるのは、以上の三例とも共通して間接的に、ある中心人物の姿が次第に浮かびあがってくる点である。もちろん、それも定石といえば定石なのだが、見事な間接描写を堪能できるだけに「座布団一枚!」と言いたくなる。そして何より、「妻を思うアメリカ兵、弟を思う姉、その2人の子供を思う伯母のそれぞれの愛情がストレートに胸を打つ」。時間が許せば一気に読んで、ほろりと涙したいところだ。