ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

"Tinkers" 雑感(1)

 職場の農繁期も先が見えてきたが、連休までは忙しそう。それでも少しずつ何か読まなければと思って、Paul Harding の "Tinkers" に取りかかった。米アマゾンが選んだ09年の年間ベスト10のうち、ペイパーバックで読める数少ない作品のひとつである。
 まだいくらも進んでいないが、テーマはどうやら愛と死、喪失といったところ。舞台はニューイングランド。死の床にある老人 George が意識と無意識のあいだをさまよっている。死の8日前から2日前までカウントダウン式に三人称で、幻覚や断片的な回想、ベッドのある室内風景、集まった家族の言動などを通じて人生の軌跡が次第に明らかにされる。
 一方、その70年前、老人の父親 Howard がニューイングランドの森の中で雑貨商というのか何でも屋というのか、いろいろな品物を売ったり、時にはペンチで相手の歯を抜いてやったりしながら暮らしている様子も平行して描かれる。Howard はてんかん持ちで、野外で発作を起こしたこともあり、こちらもどうやら死へ向かいつつあるようだ。どちらにしてもかなり饒舌な文体で、Howard のほうで言えば、森の中の風景や四季の移ろいに至るまで細かい描写が続く。George は元時計職人で、アンティークな時計の構造に話が飛んだりする。
 正直言って、まだ心臓をぐっとわしづかみにされるほどではないが、ぼくはこのところ、周辺で起きた事件をきっかけに超倍速で自分自身の人生をふりかえる羽目となり、いつか襲ってくる死についても思いをめぐらすことが多かった。今話題の新書、『葬式は、要らない』も図書館から借りてきてちらちらながめている。そんな心境でこの "Tinkers" に接すると、饒舌といい細かい描写といい、ピンとくるものがある。いや、お疲れモードですなあ。