ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Linden MacIntyre の "The Bishop's Man"(1)

 昨日読みおえるはずだったが、仕事帰りに花見に行き、酒を飲みすぎてダウン。今日になってやっと読了した。カナダで最も権威のある文学賞、ギラー賞(The Scotiabank Giller Prize)の昨年の受賞作である。今までの雑感のまとめになりそうだが、さっそくレビューを書いておこう。

The Bishop's Man

The Bishop's Man

[☆☆☆★★★] 終盤に差しかかるまで、すこぶるサスペンスに満ちた内省小説で大いに満足した。カナダ北東部の海辺の町にダンカン司祭が赴任してくる。ダンカンは司教の命を受け、神父たちのスキャンダルを秘密裡に処理する「エクソシスト」役を長らくつとめ、若いころはホンジュラスで何やら、当地の司祭と女にからんで大事件に遭遇した様子。新しい赴任先の町でも若者が自殺、そこにさる神父の影が……。そんな過去と現在の事件が交錯しながら少しずつ真相が明らかになる、ちょっとしたミステリ仕立ての展開がまず楽しい。が、本書で何より特筆すべきは中年司祭ダンカンの人間像だろう。彼はほかの神父たちの問題処理係として他人の偽善や人間的な欠点と対峙し、時には強い正義の怒りを覚えるものの、それは決して自分を棚上げした正義感ではない。そこには同時に終始一貫、やや感傷的ながら自己省察が認められる。ダンカンは自分もまた罪人なのだという強い罪悪意識をもち、それが孤独感や悲哀、老いの不安、そして酒へとつながっているのだ。その陰翳に富んだ表情、心の微妙な揺れ動きがとても切ない。だが、内省にもおのずと限界があり、外へ感情が発散されるとき……。終盤、やや盛り上がりに欠け、「自分を棚上げしない正義感」をもっと劇的に表現してほしかったという恨みは残るが、途中、ダンカンが何度か接する女性とのプラトニックな心の交流など、思わず溜息が出るほどすばらしい。英語は標準的で読みやすい。