ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Lorrie Moore の “A Gate at the Stairs”(1)

 一週間もこのブログをサボってしまったが、職場の繁忙期にくわえ、たぶんあとから振り返るとひとつの激動期だったと思える日々が続いたのが原因。ダッチロールの末、ぶじ元の飛行場へ戻って気がついた。ぼくはふだん本を読み、少しは人生のことが分かっているつもりで駄文を綴っていたが、じつはほとんど何もわからないまま読んでいたのではないか。本の中身はいつも一応理解したつもりでいるけれど、現実に存在する人間のことはさっぱり理解していない場合が多いのでは…
 と思いつつボチボチ本書を読んでいるうちに、本当にようやく読了。こんなに時間がかかるとは我ながら情けない話だが、本書の主人公同様、ダッチロールによって少しは大人になれたとしたら悔いはない。
 前置きが長くなった。いつものようにレビューを書いておこう。

A Gate at the Stairs (Vintage Contemporaries)

A Gate at the Stairs (Vintage Contemporaries)

A Gate at the Stairs

A Gate at the Stairs

[☆☆☆★★] 20歳の若い娘が世話をした女の子との別れ、失恋、肉親の死など、愛情や愛着を覚えた人間との別離を通じて大人へ成長する物語。イリノイ州の農家に生まれた娘が大学に進学、白人夫婦が養子に迎えた混血黒人の女の子のベビーシッターとなる。地方ならではの農作業や風物、人情を描いたローカルピース、幼い子供を中心に大人たちが繰りひろげる愛憎劇、養子を迎えながら手放す羽目になった夫婦や娘の家族が織りなす家庭小説、人種差別を扱った社会小説、そしてもちろん孤独な娘の心の遍歴、魂の彷徨を描いた青春小説と、さまざまな要素が盛りこまれているが、一つ一つのエピソードは必ずしもドラマティックではない。日常茶飯とさえ言えるものが多いくらいで、強烈な物語によるドライブ感覚こそ味わえないものの、コミカルな語り口に哀感がこめられた悲喜劇調で、くすっと笑いそうになったり胸をえぐられたり、その変化の妙が楽しい。娘がこの物語を通じて確実に成長を遂げたとは言えないが、たとえばあどけない幼児の面倒を見る前と、その子との別れを経験したあとではやはり何かが変わっている。そういう小さな事件の積み重ねを経ることにより、長いスパンで見れば成長を遂げていくのが人間なのかもしれない。英語は口語表現が多く、語彙的にもけっこうレヴェルは高い。