ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

“A Sudden Country” 雑感(4)

 当然結びつくべき男と女がなかなか結びつかない。ラブロマンスにおける定石のひとつだが、これが現代を描いた小説なら二人の心の中にあるハードルは低いかもしれない。相思相愛ならあっさり結ばれるのが現代だからだ。ところが本書の舞台は19世紀中葉のアメリカ西部(へ向かう途中の荒野)。しかも女には夫がいる。
 ハードルは男のほうが高い。インディアンの幼妻をめとり、三人の子供をもうけながら、二人は病死。妻は若い男のあとを追って出奔してしまった。男は愛の虚妄を覚えつつ、妻への思いを断ち切れない。亡き子供たちの思い出も胸をよぎる。それゆえ、自分に思いを寄せる女が現われても、すぐには飛びつけない。ためらい、迷い、恐れがどうしても先走ってしまう。
 女のほうも、突然死んでしまった前夫への思いが募るばかり。それが現在の愛なき結婚生活における閉塞感につながっている。
 そんな二人が目と目を合わせ、少しずつ言葉をかわし…というわけで、相変わらず「大枠の見える話」であり、定石どおり進行している。ただ、冒頭の話題に戻るが、心理的なハードルの高いラブロマンスほど、もどかしいと同時に美しい。夜の荒野における初めてのラブシーンのなんと遠慮がち、なんと詩的なことか。こんな小説を読んでいるときの至福の一瞬である。