ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

“Cutting for Stone”雑感(4)

 読めば読むほど面白くなってきた! 職場が繁忙期を迎えたのに、しかも今日はウィークデーだというのに、もう80ページも読んでしまった。これほどクイクイ読める小説は今年初めてだ。当初、ただ分厚いというだけで「波瀾万丈の物語」と決めつけた本書だが、ちょうど半分まで達した今、これは掛け値なしに波瀾万丈の展開である!
 複数の人物の視点。歴史的、社会的な背景。詳細な人物描写、情景描写。こういった要素が本書を「決して水増しではなくドラマティックに盛り上げている」と前回書いたが、その後の流れを見ると、さらに「ひと粒でいくつもの味」というのもこれが長くて面白い理由のひとつ、いや、最たるものだろう。
 まず復習だが、第1部のメインはシスターの出産と死亡をめぐる悲喜劇的なドタバタ騒動。それが第2部では、産婦人科医と内科医のあいだにロマンスが生まれ、恋愛小説へと変貌。やがて第3部に入ると、生まれた双子のうち兄の Marion がいよいよ主人公らしくなり、乳母の娘と一緒に遊んだ幼い子供時代の思い出を語る。弟 Shiva との違いを意識するといった自我の芽生えも描かれ、このくだりは明らかに青春小説。
 で、このまま進むのかと思ったら、それまで背景に過ぎなかったエチオピアの歴史、社会情勢が突然物語の本流となる。ハイレ・セラシエ皇帝の海外訪問中にクーデターが発生、それが内戦につながり、その混乱のさなかに、双子の父親代わりを務めてきた内科医がクーデターの首謀者との関係を問われて投獄されてしまったのだ。詳細は省くが Marion が演じる冷や汗もののアクションシーンもあり、ぼくはすっかり夢中になってしまった。大きな歴史のうねりに呑みこまれた市民の運命から目が離せなくなったのである。