ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

“Cutting for Stone”雑感(5)

 快調また快調、これはほんとうに面白い! わずかながら今年の上半期に読んだ本の中では、間違いなくベストワン候補に入るだろう。今週は水曜日に家でかなり飲み、今日も職場の飲み会にちょっと顔を出してから帰宅したのだが、それでも最近のぼくにしてはかなりのハイペースで読み進んでいる。明日は出勤日だし「痛飲日」なので無理だが、あさってには読了できそうだ。
 前回、「ひと粒でいくつもの味」がする、と評したこの作品の本質もようやく見えてきた。これは主人公 Marion が医師として、そしてまた一人の人間として成長していく様子を描いた小説である。「大きな歴史のうねりに呑みこまれた市民の運命から目が離せなくなった」と指摘した歴史小説、社会小説の要素も、あるいはドタバタ喜劇や青春小説、恋愛小説、家庭小説などの要素も、すべてはこの「医師として、人間としての成長物語」という大きな幹を鮮やかに彩る枝葉であると思う。
 ネタばらしは避けたいので粗筋はもう書けない。エチオピアの首都アジズアベバの病院で誕生した Marion が今や、ニューヨークの病院でインターンとして悪戦苦闘中。これだけでも十分、本書の時間的、空間的な広がりを想像できるはずだ。そのあいだに個人的には断絶や別離、喪失の歴史があり、国家的には体制の変化、内戦の歴史がある。そういうミクロとマクロの視点がうまくかみ合っているうえに、たとえばオペの実況中継のようなサスペンスたっぷりのシーンも多い。クイクイ読めるゆえんである。