ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Abraham Verghese の “Cutting for Stone”(1)

 ニューヨーク・タイムズ紙の Trade Paperback 部門ベストセラー第8位、Abraham Verghese の "Cutting for Stone" を夕べ読みおえた。ほんとうは一気にレビューを書くつもりだったのだが、おとといの深酒がたたって昨日は朝寝坊。おかげで読了も予定より遅れてしまった。何はともあれ、記憶が薄れないうちに記録にとどめておこう。

Cutting for Stone

Cutting for Stone

[☆☆☆☆] 愛と友情、誠意と信頼、人間の絆と運命をテーマにした掛け値なしの感動巨編! ハイレ・セラシエ皇帝統治下、エチオピアの首都アジスアベバの病院でシスターが双子を出産後に死亡というショッキングな事件に始まり、その前後50年以上にわたる激動のエチオピアの歴史を背景としながら、今や外科医となった双子の兄マリオンが幼年時代から現在にいたる自分の人生をはじめ、シスターや実の父親と目された外科医、育ての父と母、弟や初恋の娘などの人生を回想する。出産をめぐるドタバタ喜劇、二人の父親がそれぞれ体験したロマンスを扱った恋愛小説、マリオン自身の恋の痛手が中心の青春小説、親子や兄弟の断絶と和解を描いた家庭小説、さらにはイタリア軍による占領、皇帝による統治、クーデター、内戦などの政変を描いた歴史小説、社会小説と、本書にはじつにさまざまな要素がある。が、それは同時にすべて、数奇な運命のもとに生まれ落ちたマリオンが医師として、人間として成長していく過程でもあり、その成長過程を通じて「愛と友情、誠意と信頼」の尊さ、「人間の絆と運命」の重みがひしひしと伝わってくる。人が生まれ育ち、そして生きつづけるあいだに、自分自身はもちろん、自分と深くかかわる人々も数多くのドラマを体験する。その複合ドラマの一環として自分の人生がある。そんな思いに駆られる「感動巨編」である。冒頭の出産シーンをはじめ、マリオンと性悪な兵士との対決、息づまるような外科手術の模様などアクション・シーンが多いのも魅力のひとつ。英語は医学の専門用語を除けば標準的なもので読みやすい。