ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

“In Other Rooms, Other Wonders”雑感 (2)

 北海道旅行1日目。阿寒湖〜硫黄山摩周湖川湯温泉と回るうちに、バスの中で何とか第3話まで読み進んだ。おかげで最初はぴんとこなかった本書の特質も、ようやく見えてきたように思う。これは、平凡な市井の人々の人生における有為転変を淡々と綴った短編集である。(…などと今のうちから断定して、あとで赤恥をかくことになるかもしれないけれど)。
 昨日はよくわからなかった第1話にしても、電気技師が才覚を発揮して順調に地位を固めつつあった矢先に突然、生死にかかわる事件に巻きこまれてしまう。第2話では、貧しい家に生まれた娘が地主の召使いとして働くうちに古株の使用人と関係、子供を産んで幸福な人生を送りかけたところへ、それを一気に暗転させる事態が発生する。第3話も人物は異なるが大筋は似たようなものだ。
 つかのまの幸福、はかない人生の悲哀…といったキーワードが思い浮かぶが、ぼくがとりわけ気に入ったのは、第3話で、ガンを告知された男が愛する女と最期に会う場面。切りつめた会話の中に万感の思いがこめられていて、なかなかよかった。
 なお、今のところ、どの話にもラホールに住む同じ地主が登場し、その使用人たちが交代で主人公となっている。彼らの平凡な人生の悲喜こもごもが今後も描かれるのかもしれない。