ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Daniyal Mueenuddin の “In Other Rooms, Other Wonders”

 旅行中はせっかく頑張って本を読んでいたのに、今日は頭が働かず、終日ぼんやりしていた。ともあれ、おととい読みおえた本書のレビューを書いておこう。雑感(1)でもふれたように、これは去年の全米図書賞最終候補作のひとつで、タイム誌とパブリシャーズ・ウィークリー誌の年間ベスト10にも選ばれている。

In Other Rooms, Other Wonders

In Other Rooms, Other Wonders

[☆☆☆★★]「禍福はあざなえる縄のごとし」という諺をストーリー化したような短編集だ。舞台はパキスタンの街や農場がほとんどで、一話だけパリ。ラホールの大地主とかかわる人物が交代で主役をつとめ、その大半は使用人。彼らが幸福をつかんだかに思えたのもつかのま、突発的な事件に巻きこまれるなどして運命が暗転してしまう。中には「災い転じて福となす」ようなコミカルな話もあるが、表題作をはじめ、はかない人生の悲哀をしみじみと感じさせるものが多い。総じて人生の有為転変、悲喜こもごもを、パキスタンの地方色豊かな背景のもとに描いた作品集と言える。そんな中、ひとつ異彩を放っているのがパリ篇で、上の地主の息子と交際中のアメリカ人の若い女が、冬のパリで相手の両親と初めて顔を合わせる。そこで出した結論は…。冬ざれたパリの街並みや田園の風景が女の心理とよくマッチし、静かに揺れ動く感情のさざ波がすばらしい。本書には、こういう人生や人物の心理が結晶化されたような「永遠の一瞬」とも呼ぶべきシーンがいくつもある。英語はおおむね標準的で読みやすい。