ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

“The Thousand Autumns of Jacob de Zoet”雑感(3)

 今日は第3部の途中まで読み進んだ。このペースだと、明日にはレビューが書けるかもしれない。毎日猛暑が続いているが、本書のように分厚い本をヒーヒーうなりながら読むのもまた格別だ。小学校のころから夏は大好きだ。
 第2部は相当に面白い! 例によって細部の構成から始まるが、第1部の終幕で盛りあがった余韻のおかげですんなり読める。視点が変わってこのパートでは、Jacob に見そめられた日本人娘 Orito と、同じく日本人の通詞 Ogawa が中心人物となる。が、主筋はもう紹介できない。第1部でちらほら見えた陰謀が意外な形で表面化し、息づまるようなサスペンスに満ちたシーンがいくつかある。大昔読んだアリステア・マクリーンの冒険小説を思い出した。それから、司馬遼太郎の『梟の城』のノリかな。
 ほんとうは伝奇小説と言いたいところだが、これを説明するためには、Orito が拉致されて押しこめられた尼寺にふれざるをえない。しかしどこまで話したらいいのか…。完全なフィクションとも思えず、何かモデルとなった史実があるのかもしれないが、そんなこととは関係なく、ぼくは現代のカルト教団を連想した。
 ただし、面白いことはとても面白いのだが、かなり気になる点もある。…いや、この話はやめよう。作品の根幹にかかわる問題なので、最後まで読んでから改めて考えてみたい。それより、第2部には愉快なダイグレッションもあって、杉田玄白前野良沢などの蘭学者が顔を出すのだが(前野は第1部の冒頭、お産のシーンをはじめ、以前からときおり登場する)、その席で Yoshida Hayato という青年がこんな発言をする。'To avoid becoming a European colony, we need colonies of our own.' (p.198)
 さすがは日本通の David Mitchell だけあってよく調べて書いているけれど、こういう歴史観に目くじらを立てる向きもある、とだけ注をつけておこう。ともあれ、この第2部で少なくとも「面白度」ではブッカー賞が見えてきたな、という感じだ。