ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

David Mitchell の “The Thousand Autumns of Jacob de Zoet”(2)

 エコ時代を先取りしてわが家にはクーラーがなく、扇風機も風呂上がりにしかつけない。あとは熱帯夜でも団扇だけだが、今年の夏の暑さはただごとではなく、保冷パックを首筋や脇の下に当てながら本書を読みおえた。最初のうちこそ「一気に読み通したくなるほどの魅力は感じられな」かったものの、読了後の今はとても満足している。
 これでブッカー賞の候補作を読むのは4冊目だが、ロングリストの段階でこんなに読んだのは今年が初めてだ。このブログを書きはじめた3年前に3冊読んだ記録を塗りかえてしまった。理由は簡単で、ペイパーバックで読める候補作がほとんどだからだが、本書のような秀作に出会うと、当初の読書予定を変更してまで取り組んだ甲斐があるというものだ。
 ちなみに、William Hill のオッズを調べてみると、今週は 4 / 1 で単独トップに立っている。アマゾンUKのフィクション部門でも今現在、ベストセラー81位にランクイン。"The Slap" は18位だが、本書のほうがブッカー賞にふさわしい内容である。ショートリストに選ばれるのはもちろんのこと、栄冠に輝く可能性さえありそうだ。(ただし、ぼくの予想はどの賞でも当たったためしがほとんどない)。
 雑感(3)で、「面白いことはとても面白いのだが、かなり気になる点もある」と書いたが、その「気になる点」をここで説明すると、第1部と第2部で視点が変わったけれど、その整合性はどうなっているんだろう、要するに作者は何を言いたいのかな、と疑問に思ったのだ。これはまさしく「作品の根幹にかかわる問題」である。その疑問が氷解したのが第3部の後半で、それゆえ昨日のレビューにも「当初の疑問は杞憂に過ぎなかった」とまとめた次第だ。…長くなりそうなので、この続きはまた明日にでも。