ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Paul Murray の “Skippy Dies”(2)

 先週読んだ David Mitchell の "The Thousand Autumns of Jacob de Zoet" がわりと重い内容だったので、今度は肩の凝らない小説を、と思って取りかかったのだが、結果的に当てはずれ。えらく長いし、最後あたりは夏バテも手伝ってヒーヒーだった。これまた大変な力作で、さすがはブッカー賞のロングリストに選ばれただけのことはある。
 今しがた William Hill のオッズを調べると、Andrea Levy の "The Long Song" と同じく 10 / 1 で下位グループだが、ぼくの独断と偏見によれば本書のほうが上。裏表紙の紹介記事から、どうせ「泡沫候補」だろうなどとバカにしたぼくがバカでした。
 それでも最初は予想どおりで、ヒュー・グラントをモデルにしたようなラブコメのエピソードもあり、ずいぶん楽しかった。なにしろ、教師側の主人公とも言える Howard が若い美人の代用教員と初めて会ったとき、いきなり 'I'm not going to sleep with you.' などと言われるのだから、読んでいてニヤニヤしないほうがおかしい。映画にするなら、この女性役はアン・ハサウェイかな。
 ところが、「ドタバタ狂騒劇も極まれり」と雑感に書いた合同ダンス・パーティーが終了、中盤に差しかかったあたりから、話はだんだんヘヴィになっていく。少年たちが女子校に侵入するといったコミカルなエピソードもあるのだが、次第に「負の感情」が前面に出はじめ、しまいには「意識の流れ」を使ったマジック・リアリズムの小説の味わいさえあるほどだ。この混沌とした作品世界を統一性の欠如と見なすか、ぼくのように「混迷する現代の象徴とも言えるような悲喜劇」と考えるか。それによって評価が分かれるかもしれない。
 ともあれ、これで今年のブッカー賞の候補作を読むのは5冊目だが、どれもそれなりに面白い。読み物としては "The Slap" がいちばん面白いかな。でももう、どんな話だったか忘れてしまった。その点、David Mitchell はいまだに心に残っている。退屈なくだりもあるが、今まで読んだ中では最有力だと思う。この "Skippy Dies" は今のところ2番目に印象深いのだけれど、感動を覚えるほどではない。
 というわけで、1."The Thousand Autumns of Jacob de Zoet" 2."The Slap" 3."Skippy Dies" 4."The Long Story" 5."Trespass" というのが今までの暫定ランキングだ。