ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Peter Carey の “Parrot and Olivier in America”(2)

 仕事の合間に本書の後半をボチボチ読みながら、ぼくが歴史小説に期待するものは何だろうと考えてみた。以下、いささか図式的だが、思いつくままに挙げてみると、
 1.知られざる事実もしくは人物に光をあてたものを読み、なるほどそういうこともあったのか、と感心する。もしくは、ダマされる。
 2.おなじみの事実もしくは人物に新しい角度から取り組んだものを読み、なるほどそんなふうにも考えられるな、と感心する。もしくは、ダマされる。
 3.どちらにしても、過去の事件や人物と接することにより、なるほど人間とはこんなことを考えたり行動に移したりするものなのか、と感心する。もしくは、ダマされる。
 …ほかにもありそうだが、ざっとこんなものだろう。ところが、ぼくは本書を読んでいて、語り口のうまさや構成の妙に感心したり、コミカルなエピソードにニヤっとしたりしたものの、上のどの観点から見ても感動を覚えることはなかった。それどころか、「面白いことは面白いのだが、こんな歴史小説、今まで何冊も読んだことがあるような気が」して仕方がなかった。「斬新な切り口」がどこにも見当たらないからである。
 その点、本書と同じく今年のブッカー賞候補作である David Mitchell の "The Thousand Autumns of Jacob de Zoet" の場合は、とにかく自己犠牲の美しさに感動を覚える作品ということでかなり満足できた。部分的には本書より退屈なくだりもあり、Peter Carey のほうが芸達者だとは思うけれど、作家としてのインテリジェンスという点では Mitchell のほうが一枚上手、と言いたくなるほどの差が二つの作品にはある。
 ともあれ、いよいよブッカー賞のショートリストが明日発表される。今まで読んだ6冊の候補作を格付けすると、1."The Thousand Autumns of Jacob de Zoet" 2."Skippy Dies" 3."The Long Story" 4."Trespass" 5."The Slap" 6."Parrot and Olivier in America" となる。読み物としては "The Slap" がいちばん面白いかもしれないが、時間がたてばたつほど印象が薄れてしまい、先月27日の暫定ランキング2位から落としてしまった。さて、このうち何冊残っているでしょうか。