ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

“The Betrayal”雑感(2)

 ああ、リョサノーベル文学賞を取ってしまった! 恥ずかしながらぼくは、積ん読のペイパーバックが2冊あるだけで未読。ぼくのようなサラリーマン洋書ファンが英米の新作を追っかけていると、英米にかぎらず世界の古典名作を catch up する時間が取れない。それでも2年前までは、毎年夏になるとフォークナーやロレンスなどを読んだものだが、去年と今年はさっぱり。ラテンアメリカ文学となると、この前読んだのはいつだっけ…。あ、Roberto Bolano を2冊読んだな。でも、「文学のお勉強」として読んだのは、2年前の夏の Carlos Fuentes が最後。このぶんだと、いつになったら積ん読のペイパーバックの山を切り崩せることやら…。
 閑話休題。前回からさほど進んでいるわけではないが、"The Betrayal" をボチボチ読んでいる。ブッカー賞の受賞発表が迫ってきた今ごろ、こんなショートリスト落選作を読んでいる物好きもそんなに多くはいないでしょうね。
 今日はやっとスターリンの名前が出てきたところだが、旧ソ連ものを読むのは Travis Holland の "The Archivist's Story" 以来、ほぼ1年ぶり。その雑感にぼくはこんなことを書いている。「共産主義という名の全体主義の恐怖については、その思想的な根源としてはドストエフスキーが書きつくしているし、スターリニズムにかぎってもオーウェルを読めばまず充分。現代作家にとって『悪霊』や『1984年』に比肩しうるような小説を書くことは、ほとんど至難の業なのではないだろうか」
 で、じつは本書もそんな感想をいだきながら読んでいる。ガンにかかった少年の父親が秘密警察の高官ということで、担当医は医者としての良心と、自分や家族の安全への不安に引き裂かれる。悪くない設定だ。"The Betrayal" というタイトルからしてもたぶん、これからひと波乱あることだろう。だからとても先が楽しみなのだが、本質的な問題追求という点ではおそらく上の偏見どおりになりそうだ。
 今日は午後から、ロシア文学が専門の友人と一緒に芸大へシャガール展を見に行くことになっている。一杯やりながら本書の話もしてみようかな。