ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Nicole Krauss の “Great House”

 またまた大幅に予定より遅れてしまったが、今年の全米図書賞(National Book Award)の候補作のひとつ、Nicole Krauss の "Great House" を何とか読みおえた。さっそくレビューを書いておこう。

Great House

Great House

[☆☆☆★★] 夫婦であれ親子であれ、はたまた恋人同士であれ、おたがいに長く接するうちに心の歴史がくりひろげられ、その関係が濃密であればあるほど葛藤も深まる。あるいは、たとえ一瞬の関係であっても、それが強烈であればあるほどその後の人生を支配する。そんな平凡な真理に胸をえぐられる秀作短編集。4つの物語が前後2部に分かれて収められ、1話を除いてそれぞれ同じ主人公の内的モノローグが続く。各話をつなぐ糸はユダヤ人とエルサレム、そして時代物の大型デスク。数奇な運命によって机の持ち主が変わり、それぞれの所有者が、もしくはその近親者が交代で4半世紀以上におよぶ人生をふりかえる(1話のみデスクとは無関係)。どれも人間関係とは葛藤や緊張の連続であることを改めて思い知らされる好編で、相手との反目や断絶、自分自身の孤独や喪失、挫折といった負の感情に深い愛情が織りまぜられ、人を愛するほどに傷つき、傷つくほどにまた愛する、という人生の現実に茫然とならざるをえない。たとえば第3話では、長年連れ添った妻がアルツを患った末に他界、その晩年に寡黙な妻の秘密が明らかになる。全編の白眉と言えるだろう。内容にふさわしく英語はじっくり丹念に彫琢した文章だが読みやすい。