ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

“Sunset Park”雑感(2)

 今日も朝のうちは仕事に励み、午後から本書に取り組んだ。快調また快調、クイクイ読める。Auster の本はいつもそうだが(と言えるほど旧作を読んでいるわけでもないが)クイクイ度抜群である。「去年の "Invisible" のほうがもっと面白かった」という昨日の感想は訂正。なにしろ、あちらはもう記憶の彼方に消えさっているので較べようもない。
 どうやらこれは、「心温まるいい話」に落ちつきそうな気配がある。最初はいろいろな人物がリレー式に主役をつとめるのかと思ったが、いや、今でもその形式に変わりはないのだが、たぶん真の主役は第1話の青年だろう。
 彼は頭脳明晰で東部の有名大学に通っていたのだが、複雑な家庭の事情で家を飛び出し、大学も中退。各地を転々としたあとフロリダで空き家の清掃の仕事につく。高校生の娘と知りあい同棲していたが、「淫行」のかどで訴えられる恐れがあり、単身ニューヨークへと舞い戻る。転がりこんだ先がタイトルの Sunset Park 地区にある空き家で、青年の旧友やその友人たちが不法に住みついている。
 以上が今までの大筋で、青年をはじめ旧友などボロ家の同居人たち、青年の父親が交代で主役を演じながら大枠の中でそれぞれ、昔から今にいたる胸の内を打ち明ける。もう詳しく書けないところまで読み進んでしまったので総論的な言い方しかできないが、彼らはみな心に深い傷を負い、悩みをかかえている。挫折、喪失、悲哀、絶望、不安、孤独…たまたまこの前読んだ "Great House" の登場人物と同じく、そんな重い負の感情が渦巻いている。
 が、希望がないわけではない。自分なりの principle を毅然ともち、愛情豊かで誠実で、他人の心の痛みを理解できる人々でもある。ただ、もちろん紆余曲折があり、青年の両親は離婚。父親や新しい母親、実母、その今の夫など青年を取り巻く家庭環境は複雑で、過去のいまわしい事件やおたがいの衝突、誤解なども描かれ、ボロ家の住人よりもむしろ、そういう青年の家族の物語が中心になりつつある。これがかなり面白い。明日で一気に片づけたいところだが、なにしろ宮仕えなもので…。