ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Paul Auster の “Sunset Park”(1)

 昨日、家に帰ってから Paul Auster の新作 "Sunset Park" を読みおえたのだが、レビューを書く時間は取れなかった。何とか思い出しながら書いてみよう。

Sunset Park

Sunset Park

[☆☆☆★★]「いまを生きる」…あの映画のタイトルを借用すれば、そんなふうにも要約できるバリバリの現代小説だ。2008年、フロリダからニューヨークはブルックリンへと舞台が変わるうちに、主人公の青年とその家族、青年ともどもブルックリンのボロ家に不法に住みついている同居人たちの人生を通じて、オースターがとらえた典型的な現代人の生態、意識構造がうかびあがる。彼らはみな、いちように傷ついている。親子や夫婦、恋人同士といった人間関係や仕事の問題などで生じる衝突、誤解、喪失、挫折。さらには孤独と絶望、不安、不満…。そういった負の感情が渦巻く一方、自分なりの価値観を毅然ともち、深い愛情や友情、誠意で結ばれながら問題を解決しようとする姿も描かれる。明るい未来があるわけではなく、処方箋が示されるわけでもないが、暗い絶望の淵に沈んでいるだけでもない人生。それぞれの場面で悪戦苦闘する人物たちが悲しくもあり、おかしくもあり、終幕のドタバタ劇に象徴されるように、要は人生、この一瞬を生きるしかない、と思えてくる。大リーグの歴史における珍事件や、自由を奪われた作家の支援活動、出版界や演劇界の事情なども巧妙に織りまぜることで、作品に適度のふくらみをもたせている点はさすがオースターである。英語は例によって快調でとても読みやすい。