師走が近づいてきた。職場も繁忙期に入り、今週はなかなか落ちついて本を読む時間が取れない。おまけに勤労感謝の日は、10年以上も昔に退職した尊敬する大先輩の通夜とあって、すっかり気が滅入ってしまった。というわけで、もっぱら通勤読書の日々が続き、今日になってやっと本書の中盤に差しかかった。
これは今まで期待どおり、メロドラマ系、ストーリー重視型の小説である。こういう作品の中間報告で困るのは、どこまでネタばらしをしたらいいのか迷うことで、未読の読者の興を削いではいけないし、さりとて、ある程度具体的に書かないと面白さが伝わらない。特にこれは今のところかなり先を読みやすい展開なので、微妙なさじ加減がむずかしい。
それゆえ奥歯に物のはさまったような言い方になるが、このメロドラマは男女の恋愛もさることながら、むしろ親子の情愛のほうが主流になっている。道ならぬ恋の行く末に産んだ子供を手放した女の思い。夫亡きあと女手一つで娘を育ててきた母親と、その母親が不治の病に冒されていることを知った娘の思い。あるいは、戦争で疎開し、母親と離ればなれになった子供たちの思い。どれも定番のシチュエーションだが、これらをうまく絡み合わせながら同時に話を進めている点がミソ。
そこへ立ちはだかるのが数々の試練、障害である。配偶者やその家族の偏見、世間の誤解や中傷、そして何より悲惨な戦争。昔から、障害が大きければ大きいほどメロドラマは盛りあがるものと相場は決まっているが、親子の愛が中心の場合でもそれは変わらない。ああ、早く幸せになってくれ…とまではまだ感情移入していないけれど、読者にそう思わせるためにも障害は必要なのである。
ざっとそんな小説のことゆえ、テーマやストーリー展開のほかにも、いくつかステロタイプが目につくのは仕方がない。要は程度問題で、許容範囲なら黙ってニヤニヤしながら読み、おかげで通勤地獄も少しは楽しくなる、と考えるのが大人の知恵だとぼくは思っている。