ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

“Hotel on the Corner of Bitter and Sweet”雑感(1)

 Tracy Chevalier の "Remarkable Creatures" に続いてニューヨーク・タイムズ紙の Trade Paperback 部門ベストセラー、Jamie Ford の "Hotel on the Corner of Bitter and Sweet" に取りかかった。Chevalier のほうは今週リストから消えてしまったが、こちらは目下11位とがんばっている。
 これはじつを言うと、リストの画面に載っている紹介文を読んだときに注文をためらった本である。なにしろ、中国系アメリカ人が主人公で日本人も出てくるという。同じような設定で途中で挫折した Karen Tei Yamashita の "I Hotel" のように、(少なくとも読んだ範囲では)政治的な話題が連続するような小説だと困るな、と思ったからだ。
 しかしそれは杞憂にすぎなかった。それどころか、年とともに涙もろくなっているぼくはもう2回も落涙。さいわい、珍しく帰宅してから読みふけっていたときなので事なきを得たが、明日の通勤中が心配だ。
 今のところ、1986年と1942年のシアトルが舞台で、主人公は上記のとおり中国系アメリカ人のヘンリー。旧日本人町にある長らく閉鎖されていたホテルが改修されることになり、新しい経営者が地下室で大量の日本人の私物を発見。その中にあった一本の和傘にヘンリーは見憶えが…という冒頭からしてタイトルどおり、bitter and sweet な雰囲気につつまれている。
 まもなく現代編と平行してヘンリーの少年時代の物語が始まるが、それは日本人なら誰しも正座して読まざるをえないような歴史小説だ。第二次大戦中、2世もふくめた日系アメリカ人の強制収容が描かれているからである。
 ヘンリーは父親の意向で白人のプレップスクールに転校。そこで知りあったのが、日系ながら同じく例外的に入学を許可されたケイコ・オカベで、2人はやがておたがいに好意をいだくようになる。ケイコの両親はヘンリーを歓待するが、ヘンリーの父親は大の日本人嫌いとあって、ヘンリーはケイコのことをいっさい秘密にしている。そこへ突然、強制収容が始まる。
 …というだけで、どんな流れかおおよそ見当がつきそうな物語だが、これを書いているうちにふと巻頭を見たら、首から認識票らしきカードをぶら下げた、カメラの前でほほえみ加減の少女の写真が載っていた。今日はもう書けない。