ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

“Hotel on the Corner of Bitter and Sweet”雑感(2)

 今まで本書以外にも、第二次大戦中における日系アメリカ人の強制収容を扱った小説があるのかどうか、不勉強のぼくはまったくわからない。面倒くさいのでネットで検索する気もしないが、ともかく本書がすぐれているのは、この問題を中国系アメリカ人の少年ヘンリーの目をとおして描いている点だと思う。
 ヘンリーは少年のことゆえ世界情勢や戦局、大きな歴史の流れに関心を向けることはほとんどない。彼はひたすら目の前にいる日系アメリカ人の少女、ケイコ・オカベを見つめている。その一途な真心、純粋な愛情、誠実さには胸を打たれずにはいられない。ヘンリーは可能なかぎりケイコを助けようとするものの、少年ゆえに、いや少年ならずともその努力には限界があり、たぶんそれは徒労におわろうとしている。が、それでも彼は誠心誠意、ケイコに尽くそうとする。それが喩えようもなく美しく、またはかない。まさしく bitter and sweet なのだ。
 つまり、ここには何らかの歴史観にもとづいたマクロな視点はない。あくまでヘンリー自身の内面の問題として、ミクロな視点から強制収容が描かれている。それなのに、いや、だからこそと言うべきだろう、その不条理、理不尽な事件から強烈なインパクトを受けるのである。
 それからまた、ヘンリーとその両親、そして現代編におけるヘンリーの息子とそのフィアンセなど、この中国系アメリカ人の家族をめぐる人間模様も、本書を単なる問題告発小説、感傷的な青春小説にとどまらないすぐれた作品たらしめている要因なのだが、今日は帰宅後も仕事に追われ、もう時間がなくなってしまった。明日あたり読みおえたいところだが、さて…。