ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Maile Meloy の “Both Ways Is the Only Way I Want It”(1)

 先週の土曜も仕事帰りに映画館へ。お目当ては「最後の忠臣蔵」で、公開初日に映画を見に行ったのは何十年ぶりだろう。「武士の家計簿」と同じく、かなり満足できた。が、楽あれば苦あり。おかげで昨日は「自宅残業」に追われ、今日になってやっと Maile Meloy の短編集、"Both Ways Is the Only Way I Want It" を読みおえた。昨年のニューヨーク・タイムズ紙選出年間ベスト5小説の1冊である。例によってさっそくレビューを書いておこう。

Both Ways Is the Only Way I Want It

Both Ways Is the Only Way I Want It

Both Ways Is the Only Way I Want It

Both Ways Is the Only Way I Want It

[☆☆☆★★] 人は毎日、大小さまざまな選択をしながら生きている。そしてある日、ある事件が引き金で岐路に立たされ、思い悩む。そんな「心のさざ波」を余すところなく描いた好短編集である。舞台はほとんどモンタナで、主人公は10代の少女から初老の男までさまざまだが、年輩でもすれっからしは皆無で繊細な神経の持ち主ばかり。若者なら孤独で内気、うぶな人間だ。彼らはいずれも純粋な愛情と動物的な欲求、激しい衝動とそれを抑えようとする自制心など、矛盾した感情に引き裂かれている。即物的と言ってもいいほど淡々とした情景描写の中にその微妙な心の揺れ動きが示され、彼らはやがて突発的に行動を起こす。あるいは一方、何もしないという決断をくだす。そしてそのあとまた、騒いだ心の波が静かに引いていく。起きる出来事は日常茶飯のもので、たとえばタイトルの文言が出てくる話では、女のできた夫が妻に別れを宣告すべきかどうか迷っている。つまり、ここには人生にかんする深い洞察は認められないが、その代わり、いろいろな矛盾をかかえて生きる人間の戸惑い、「心のさざ波」が静かに伝わってきて味わい深い。英語はごく標準的で読みやすい。