ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

“Light Lifting”雑感(1)

 Alexander MacLeod の短編集、"Light Lifting" に取りかかった。去年のギラー賞(Scotiabank Giller Prize)の最終候補作で、あちらの一部ファンのあいだでは、受賞した Johanna Skibsrud の "The Sentimentalists" よりも高く評価されているようだ。ぼくもヘソ曲がりなので類は友を呼ぶとばかり検索したところ、どういうわけか日英米どこも今年の4月発売とのこと。思いあぐね、ご当地カナダに当たってみたら今すぐ入手できることがわかり、ちとためらってから大枚はたくことにした。
 本書に興味を持った理由はほかにもある。著者の Alexander MacLeod があの Alistair MacLeod の息子だからだ。Alistair の "No Great Mischief" と "Island" は何年も前に読み、例によって内容はもうすっかり忘れてしまったけれど、"Island" のほうは何となくいい感じの短編集だったという記憶だけ残っている。その息子が書いた短編集と知って食指が動かなかったら洋書オタクとは言えないでしょう。
 今日はやっと表題作まで読みおえたところだが、これは期待どおり、いや、ひょっとしたらそれ以上にすばらしい出来ばえだ。やっぱり才能が遺伝したんでしょうかね。「2世作家」といえば、近年読んだ中では Kiran Desai がいるけれど、彼女の作風が壮大な歴史の流れと個人の人生を重ねあわせるという点で母親の Anita と似ているように、この Alexander もどこか Alistair を思い出させる…ような気もするが、上記の事情で自信はない。
 ともあれ、さしずめ「中距離ランナーの孤独と友情」とでも題すべき第1話の "Miracle Mile" を読みだしたときから、ぼくはキザな言い方をすれば、ここには短編小説ならではの豊穣な文学の可能性が広がっているという思いにとらわれてしまった。関係のよくわからぬ2人の男。ホテルの一室。さては…しかしこれは考えすぎで…。やがて話は2人の高校時代にさかのぼり、ランニング練習の一環として夜、トンネルの中を貨物列車と競争して走ったときの記憶がよみがえる。
 …ありゃ、第2話 "Wonder About Parents" の文体のヘタクソなまねになってしまった。とにかく、人生のそれぞれの瞬間を鮮やかにとらえ、永遠に固定したような場面が連続する一編で、独特の緊張感がみなぎっている。これこそまさに文学だ、とぼくは嘆息せずにはいられなかった。