ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Alexander MacLeod の “Light Lifting”(1)

 去年のギラー賞(Scotiabank Giller Prize)の最終候補作、Alexander MacLeod の "Light Lifting" をやっと読みおえた。例によってさっそくレビューを書いておこう。
 追記:その後、本書は2011年のフランク・オコナー国際短編賞の最終候補作に選ばれました。

Light Lifting

Light Lifting

[☆☆☆☆] その昔、「短編小説は閃光の人生」という名コピーがあったが、本書はまさに閃光のような人生を語り継いだ珠玉の短編集。といっても、ここで描かれるのは人生の決定的な瞬間だけでなく、むしろ、平凡な日常的風景を鮮やかにとらえ、それを永遠の一瞬として紙上に定着させたものが多い。名詞句と現在時制を多用し、実況中継ふうに物語を進行させる文体にその特色がよく示されている。むろん内容に応じて変幻自在、過去形をまじえたごく普通の文体もあるが、いずれにしても独特の緊張感がみなぎり、さながらフラッシュをたきながら各場面を撮影しているかのようだ。カバー写真と関係する第1話では、夜、トンネルのなかを貨物列車と競争して走った、ふたりのランナーの過去と現在が交錯しながら浮かびあがり、表題作では、夏の日に突然起きた事件にいたる経過が刻々と報告される。一方、幼いころ海辺でおぼれかけた若い娘が水泳スクールに通う話では、やっと泳げるようになった彼女が夜、ホテルの屋上から川へ飛びこむものの……。どの物語も人生にかんする深い洞察を示しているわけではないが、その代わり本書を読むと、平凡な毎日の生活にもじつは永遠の瞬間が満ちあふれていることに気づく。少なくとも一生記憶にのこるだけの意味をもつ、ちいさな体験を積み重ねながら吾々は生きている。そんな「洞察」に満ちた名短編集である。