ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Hans Keilson の “Comedy in a Minor Key”(1)

 このところパッとしない体調だったが、今年の全米批評家(書評家)協会賞の最終候補作、Hans Keilson の "Comedy in a Minor Key" を何とか読みおえた。さっそくレビューを書いておこう。

Comedy in a Minor Key (Modern Voices)

Comedy in a Minor Key (Modern Voices)

[☆☆☆★★] 第二次大戦中、ドイツ占領下のオランダでユダヤ人をかくまった夫婦の物語。とくれば『アンネの日記』を連想するが、本書はそのユダヤ人が病死したところから始まる。彼の死体をどうしたらよいのか…。そういう現在の流れと、一年におよんだ3人の変則的な共同生活の模様が切れ目なく交錯するうち、極限状況に置かれた人間の生の感情が赤裸々に描きだされる。恐怖と不安、緊張、猜疑、孤独などは言うまでもなく、男の死がもたらした安堵感や満足感まで盛りこまれている点に綺麗事でないリアルさがある。そんなシリアスな劇が「短調のコメディー」と化すのは死体を搬出するあたりから。終わってみればたしかに全体がブラック気味のコメディーと言えるかもしれないが、笑える要素は皆無。むしろ、人間同士の信頼や理解とは本質的にいかなるものか、極限状況を通じてこそ初めてわかるのでは、と実感させられる。今や定番とさえ言える物語を中編小説として凝縮させ、人間存在の根底に迫っている点がすばらしい。英語はドイツ語からの英訳ということで読みやすい。