今年のアレックス賞受賞作の一つ、DC Pierson の "The Boy Who Couldn't Sleep and Never Had To" をやっと読みえた。さっそくレビューを書いておこう。
当初は一風変わった、しかしありきたりの
青春学園小説かと思っていたら、やがてオフビートな調子が強まり、最後はまぎれもなくSF冒険小説。尻上がりに面白くなる。舞台は
アリゾナの田舎町の高校で、主人公は漫画の得意な少年。気の合った友人と一緒にSF映画の構想を練っているうちに、その友人がなんと、自分は生まれつき眠れないし眠らなくてもいいと告白する。そこが「一風変わった」点だが、女の子への恐怖心をはじめ、宿題やパー
ティー、セックス、ドラッグ、恋の鞘当てなど、高校生活を彩るさまざまな要素に話が広がり、前半はやや散漫な展開が続く。が、これは後半、「SF冒険小説」として盛りあがるための伏線なので、あまり目くじらを立てず、現代の若者らしい活発な会話調の文体を楽しみながら物語の流れを追いかけたほうがいい。やがて「不眠能力」の持ち主の少年がときおり発作を起こし、幻覚症状に襲われると…。それ以前も何度かあったコミカルでドタバタ気味の冒険が、最後は文字どおりSF映画でも見ているようなアクションへと発展。幕切れではしみじみとした余韻も味わえる。一種の「ミュータント少年」を起用することによって、定番の
通過儀礼を描きながら異色の青春小説となっている。英語は最新の口語体で、日常語が中心だが水準はやや高い。