ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

“Super Sad True Love Story”雑感(2)

 何やら全体主義国家、ディストーピア風の近未来のアメリカで中年男が若い娘に恋をする。今日読んだ箇所にこんな一節があった。'For me to fall in love with Eunice Park just as the world fell apart would be a tragedy beyond the Greeks.' (p.108) それがなぜ、どんな「悲劇」なのかはまだわからないが、今のところ、むしろ悲喜劇といったほうが正しい。
 主人公 Lenny は風采の上がらない中年男。Post-Human Services というバイオテクノロジー会社の社員で、Indefinite Life Extension という商品をローマで売りこんでいたが、1年間の滞在中で売れたのはたった1個だけ。ニューヨーク本社に戻ってきたらデスクがなく、しかもローマでの経費を返済しなければならない。
 Eunice は Lenny が帰国直前に知りあい、夢中になった韓国系アメリカ娘。恋人と別れ、傷心の身でやはりニューヨークへ帰ってきたばかりで、今は Lenny のアパートに同居しているが身体の関係はまだない。
 …と今までの流れを要約すると、これはごくありふれた物語のようだが、まず視点の変化と文章の力で読ませる。2部構成で、一つは上記の引用のように Lenny が自分の日記に 'dear diary' と呼びかけながら書いたもの。非常にエネルギッシュで饒舌な文体で、かつコミカル。自嘲気味にダメ人間ぶりを描いているが、哀調も認められ、孤独と絶望の中から愛と救いを求めている姿が次第に浮かびあがる。しかも、国家と文化の衰退に自分のダメ人間ぶりを重ねあわせているフシがあり、おまけにネット社会への風刺も読みとれる。これはやはり「どうも単なるラブコメではなさそうだ」。
 Eunice 側のことも述べようと思ったが、今日は残業で帰宅が遅くなり、もうくたくた。本書を少し読んだあと、ここまで書いただけで眠くなってきた。この続きはまた後日。