ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

“Super Sad True Love Story”雑感(4)

 カタツムリ君のペースとはいえ、ようやく後半に差しかかってきた。ネタばらしにならない程度に主筋をまとめると、Eunice は Lenny とのギャップを認めつつ、また家族の反対に遭いながらも彼を次第に愛するようになる。一方、彼女はホームレスの元軍人 David と知りあい、その支援活動を始める。セントラル・パークで起きた虐殺事件は、不満分子の反政府運動を鎮圧するためのもので、David たちは地下組織を形成しているようだ。
 Lenny と Eunice の恋の行く末はさておき、その恋に時代の暗い影が差していることだけは間違いない。国家的に不安な状況の中で Eunice は Lenny に安らぎを覚え、Lenny も Eunice だけが心の支え。そんな純愛物語に、Lenny のダサイ中年男ぶりと2人のギャップから生じるコミカルな要素と、上のような政治情勢がもたらすシリアスな要素が混じり、さらには、2人とその友人や家族との接触を通じて現代社会におけるネット依存、ケータイ依存文化への風刺も明らかに見てとれる。
 文体は相変わらず jazzy でエネルギッシュ。本書の readability は内容に加え、この文体の力によるところが非常に大きい。ふと表紙を見たら、'An intoxicating brew of keen-edged satire, social prophecy, linguistic exuberance, and emotional wallop' という David Mitchell の寸評が載っていた。ぼくのヘタクソな要約より、はるかに核心を衝いている。