ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Johanna Skibsrud の “The Sentimentalists”(2)

 ぼくが読んだのはカナダ版のペイパーバックだが、流通関係の問題があるのか、日英米の通販ではまだ入手できないようだ。書店の状況はわからない。ともあれ、雑感にも書いたとおり、これは同じく現地から取り寄せた Alexander MacLeod の "Light Lifting" と較べるとかなり落ちる。ギラー賞はあちらに取ってほしかった。
 むろん駄作というほどではなく、いささか回りくどいのを我慢すれば、「人間の悲哀、感傷、心の傷が霧の中から浮かびあが」る「過程をじっくり味わう」ことができる。そんな作風が大好きな読者もいるはずだし、ひょっとしたらそれが受賞理由かもしれない。ただ、ぼくにはパンチ不足だった。「間接描写の美学の粋を凝らした作品」ではあるが、決して斬新なものではない。
 「物語の核心とも言うべき父親の戦争証言」について補足しておこう。たぶんネタばらしにはならないだろうと思うので書くが、本書における the war とはヴェトナム戦争のことだ。不勉強のぼくは当時の戦闘シーンが出てくる小説をまだ読んだことがなく、本書にしても本格的なものではない。
 それゆえ、どうしても映画「ディア・ハンター」や「フルメタル・ジャケット」などと心の中で較べてしまい、この点でも「パンチ不足」。それより気になるのは、あの戦争を今ごろ小説の題材に取りあげる意味がよくわからなかったことだ。たまたま去年、どうやら同じくヴェトナム戦争の話らしい Karl Marlantes の "Matterthorn" が評判になっている。届いた本を見たらあまりに分厚いので積ん読のままだが、なるべく近いうちに読んでみよう。