ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

“The Imperfectionists”雑感

 べつにゴロを合わせているわけではないが、"The Sentimentalists" に続いて今度は、Tom Rachman の "The Imperfectionists" に取りかかった。先日読んだ "Super Sad True Love Story" 同様、去年のメディア露出度ではベスト10に入る評判作で、あちらは Michiko Kakutani が年間ベストに選んでいたが、本書は Janet Maslin ご推薦。
 ずばり言って、これは本当に面白い! こんなくだらないブログを書いているヒマがあったら、もっともっと先を読みたいくらいだ。すばらしい作品に出会ったときのブロガー共通の悩みかもしれない。
 最初はふつうの長編かと思ったが、これは実質的に短編集と言ってもよい輪舞形式の長編である。ローマの英字新聞の関係者が交代で主役をつとめ、べつの物語でまた、今度は端役として顔を出すこともある。パリの委託記者に始まり、死亡記事担当、ビジネス担当、編集顧問、編集主幹、カイロの見習い特派員など、いろいろな記者の仕事ぶりはもちろん私生活も描かれ、各編がおわるたびに、創設以来の新聞社の歴史が簡単に紹介されている。
 その社史もふくめてクイクイ読める理由のひとつは、しんみりしたり、ホロっとなったり、プッとふきだしたり、身につまされたり、とにかく1話ごとに味わいが変化しているからだ。老境の寂しさ、イヤな上司との確執、男縁のない女が初めて知った恋、ほろ苦い男の友情、夫の浮気がもたらした動揺などが題材で、こんなふうに羅列するとさっぱり魅力が伝わってこないが、とにかく愉快、痛快にして胸をえぐられる。
 今日は先ほど、こんな胸クソわるい会社、辞めてやる! と心の中で毎日叫びつづけている中年女性編集部員の話を読みおえたばかりだが、ぼくは、そうだそうだ、と思いながら読みふけり、そして最後は…彼女の人生にわが人生を重ねあわせ、しみじみ感じいってしまった