ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Tom Rachman の “The Imperfectionists”(1)

 去年の話題作のひとつ、Tom Rachman の "The Imperfectionists" を読みおえた。さっそくレビューを書いておこう。

The Imperfectionists: A Novel (Random House Reader's Circle)

The Imperfectionists: A Novel (Random House Reader's Circle)

The Imperfectionists

The Imperfectionists

[☆☆☆☆] 感服した。主人公が次々に交代する輪舞形式の小説で、実質的には短編集と言えるが、主人公たちの絆からながめるとやはり長編。見事な構成だが、内容ももちろんすばらしい。ローマの国際的な英字新聞社を主な舞台に、編集局長や部員、各部の記者、校正部員などいろいろな立場の社員が登場し、それぞれの仕事ぶりや人間関係、なかんずく私生活が活写される。彼ら彼女たちはみな、対人的、外見的にはタフな人物もふくめ、心の中ではいちように鬱屈し、悩み苦しんでいる。家族からの孤立、上司や同僚との対立、中年女の初恋、ほろ苦い男の友情、夫や恋人の浮気など題材としては日常茶飯だが、各人物の造形や心理描写がじつに的確で、その悪戦苦闘ぶりに思わず引きこまれる。筆致は総じてコミカル、時に抱腹絶倒もののエピソードもあれば、一方、人生の悲しい現実や定めに茫然とさせられる話もあり、とにかく愉快、痛快にして胸をえぐられる。各話の末尾で50年にわたる新聞社の歴史が綴られるが、この社史がじつは主人公たちを結びつけ、そして切り離す絆となって終幕を迎える。それぞれの人生をしみじみと実感したあとにこの結末。見事と言うしかない。英語は語彙的にはやや難しいが、活き活きとしたノリのいい文体で読みやすい。