ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Heidi W. Durrow の “The Girl Who Fell from the Sky”(1)

 昨日の夕食後、もっかニューヨーク・タイムズ紙の Trade Paperback 部門ベストセラー第15位、Heidi W. Durrow の "The Girl Who Fell from the Sky" に取りかかった。これがまたクイクイ読める作品で、通勤中はもちろん職場でもヒマを見つけて読みつづけ、帰宅後に読了。
 というわけで、今日はほんとうは昨日の続きを書くはずだったが、迷った末、読後の印象が強烈なうちにと思い、本書のレビューを書くことにした。
 追記:その後、本書は2008年のベルウェザー賞を受賞していることがわかりました。

The Girl Who Fell from the Sky

The Girl Who Fell from the Sky

[☆☆☆★★] タイトルをもじって言えば、人種差別をものともせず、自由な空へ飛び立とうとした少女の物語。ある事件後、母親や弟たちと別れた混血黒人の娘がオレゴン州ポートランドに住む祖母のもとで新生活を始める。その成長過程とともに、事件の全貌と家族の運命がミステリ・タッチで少しずつ明らかにされる展開だが、何よりもまず、心に深い傷を負いながら強い意志をもち、新しい人間に生まれ変わろうとする娘のけなげな姿がとても感動的。そこに人種問題がからむがゆえに、同じく黒人である祖母との軋轢や、学校での孤立、ボーイフレンドとの体験にしても、単なる通過儀礼にとどまらない重みがある。また、娘にしても祖母にしても、本書の主な人物はいちように深く傷つき、家族の愛情に飢えている。そういう人々同士のふれあいとすれ違いの織りなす人間模様がじつにすばらしい。そして最後、娘の発する心の叫びからは、根強い偏見への絶望と生きる希望が同時に聞こえてくる。とにかく胸をえぐられる場面の多い佳篇である。英語は平明でとても読みやすい。