ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

“The Empty Family”雑感(2)

 職場に一泊後、今日は電車が止まっていたので同僚の車で早めに帰宅。こんな途方もない大惨事に接すると、月並みな感想だが、人間の力ではどうしようもない運命の恐ろしさと、はかない人間の無力さを感じてしまう。
 とはいえ、昨夜は家族の安全を確認したあと、ぼくと同じく首都圏に住んでいる何人かの友人にメールを送ったところ、さいわいみんな無事。異口同音に「風邪をひかないように」という返信をもらい、今風ながら旧交を温めることができた。そんな些細なことでも心の支えになるものだ。
 さて今日はまず、第3話の表題作 "The Empty Family" に再挑戦。これは第1話の "One Minus One" と同じく、主人公が you に語りかける形式で進み、文体もやはり「緊密、凝縮、透徹」そのものだ。アメリカから久しぶりにアイルランドに帰国した男が主人公という設定もよく似ている。
 静かな海辺の村。風の声に耳をかたむけ、望遠鏡で波の動きを見守る主人公。ほかに2人ほど登場するが、宿泊先の家には誰もいない。いつか自分も両親の眠る墓地に入ることになるのだろう…。いかにも Toibin の作品らしく渋い短編だが心にしみる。
 第4話 "Two Women" は、同じ男を愛した2人の女が男の死後、10年以上もたって初めて出会うという流れ。映画の美術監督である主人公の老婦人の横暴なふるまいが面白いが、泣けるのはやはり、万感の思いがこめられた簡潔なセリフだろう。