ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Julie Orringer の “The Invisible Bridge”(3)

 Julie Orringer という作家の存在を知ったのは今年の1月で、本書とともに彼女の旧作短編集 "How to Breathe Underwater" が今年の全米批評家(書評家)協会賞の候補作、Hans Keilson の "Comedy in a Minor Key" の関連書としてあちらのサイトで挙げられていた。短編集のほうもなかなかよかったが、本書の出来はさらにその上を行く。ぼくが読んだのは Vintage 版で、750ページ以上もある超大作なのに、なんだかジェットコースターにでも乗ったような感じでのめり込んでしまった。
 前半と後半のおもむきが異なるのも飽きなかった理由のひとつだ。最初は文芸エンタメ路線のノリで、パリに留学した青年の建築学校における悪戦苦闘ぶりも描かれるが、中心はやはり年上の女性との恋。これに「数々の障害が立ちふさがり、まさしくメロドラマそのものだ」。それが後半、一転して第二次大戦におけるハンガリーユダヤ人の迫害が前面に押し出され、今度はまたべつの意味でドキドキ、ハラハラしながら、さらには「極限状況のもとで示される家族愛や同胞愛に胸を打たれ」ながら読み進んだ。
 そして思ったのはやはり、今度の大震災のことである。突発的な天変地異と何年にもおよぶ戦争という違いはあるが、どちらも極限状況という点では同じだろう。家族をはじめ、自分にとって大切な人間を思う気持ちは「目に見えない橋」として、時空を超え、生死の境を超えて自分と相手を結びつける。最悪の状況であればあるほど、その絆は強くなる。最後はそんな感懐にとらわれる作品である。