ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Cynthia Ozick の “The Shawl”(1)

 Cynthia Ozick の旧作短編集 "The Shawl" を読みおえた。例によってまずレビューを書いておこう。

[☆☆☆★★] 第二次大戦中におけるユダヤ人の迫害を主題とする小説は数多いが、本書は彼らが受けた心の傷の痛みを散文詩的に表現した短編集。正確には短編と中編、それぞれひとつずつ収めた小品集である。まず表題作の短編では、ポーランドユダヤ人の若い母親と少女、歩きはじめたばかりの幼い娘が強制収容所で悲劇に襲われる。ショールの扱いかたがじつに巧妙で、幼児を不憫に思う気持ちが募ったところへ衝撃的な事件。母親の悲痛な叫びが聞こえてくる。約40年後、マイアミに移住したばかりの母親の日常生活を綴った中編では、おなじショールが記憶の引き金となり、悲劇がもたらしたトラウマや、過去への妄執、狂気に近い妄想などが描かれる。オフビートな不条理の世界だが、現実から遊離した母親の言動に傷の深さが端的に示され、最初の短編ともども言葉をうしなってしまう。行間に感情がぐっと凝縮された佳篇である。