ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Jennifer Egan の “A Visit from the Goon Squad”(1)

 今年のピューリッツァー賞、ならびに全米批評家(書評家)協会賞の受賞作、Jennifer Egan の "A Visit from the Goon Squad" を読了。さっそくいつものようにレビューを書いておこう。(点数評価は後日)。

A Visit from the Goon Squad

A Visit from the Goon Squad

Visit from the Goon Squad

Visit from the Goon Squad

[☆☆☆★★] これは長編なのか、それとも短編集なのか。一つだけ挿入された実験的な構成のエピソードが象徴するように、それぞれ独立した物語から成り立つモザイク画のような長編、あるいは短編をちりばめた文学コラージュというのが正しいかもしれない。ともあれ、主人公が次々に交代する輪舞形式で各話とも進行する。主な舞台はニューヨークで、いちおう音楽プロデューサーと女性アシスタントが主役らしいことが次第にわかるものの、直接的な出番はかぎられ、その青春時代から数十年にわたって2人を取り巻く人物たちの人生の有為転変、悲喜こもごもが描かれる。孤独や挫折、喪失、絶望、悲哀、苦悩…とくれば現代人特有のブルースのようだが、流れる音楽は結びの短編に代表されるように、むしろハードロック。にぎやかで活発なノリのいい文体とともにつかのま、強烈な感動が伝わり、絶望の中に救いもかいま見える。現在と過去、そして未来という時間の流れを結ぶ永遠の一瞬にも似た光景が、それぞれの物語で繰りひろげられる。ただし、すぐれたモザイクやコラージュには全体を統合するテーマがあるはずだが、本書の場合、各話とも断片化しすぎているきらいがあり、「これは長編なのか、それとも短編集なのか」という疑問がのこる。そしてそこにじつは本書の評価が分かれる点もあると思う。英語は語彙的にはかなり水準が高いが、難解というほどではない。