ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

“The Paris Wife” 雑感 (2)

 あわよくばこの土日で片づけようと思ったが、結局「自宅残業」に追われ、今しばらくかかりそうだ。で、ボチボチ読んだ感想をまとめると、これは物語としてはまずまず面白い。ぼくのようにヘミングウェイのファンなら間違いなく興味を惹かれるはずだ。が、もしファンでなかったらどうなんだろうな。
 つまり、本書は当然のことながら、ヘミングウェイの創作活動や作品、あるいは他の作家との交流などに寄りかかっている部分が多い。前回に続いてヘミングウェイの雌伏時代が描かれ、今日は "In Our Time" でやっとブレイクするところまで読んだが、ほかにもいくつか短編のタイトルを目にするたびに、お、出ましたね、と思う。エズラ・パウンドガートルード・スタインドス・パソスフィッツジェラルドとその妻ゼルダたちとの交流も、作品の成立事情とあわせて裏話を読むような感じで興味津々。ただ、それぞれのエピソードが gripping というわけではない。
 何だかケチをつけてしまったが、本書のタイトルは『パリの妻』。ヘミングウェイが主人公なのではない。その点に本書の読みどころがある。つまりどうやら、偉大な作家と結婚したばっかりに普通の家庭生活を送れなくなった妻の懊悩がテーマのようなのだ。ヘミングウェイの側からすれば、仕事と家庭の両立、というジレンマがある。これを妻の立場に置きかえたものが主人公エリザベスの煩悶と言えるかもしれない。
 彼女は当初からヘミングウェイの才能を認め、その開花を信じて彼を励ます。ヘミングウェイはアパートでは気が散って原稿が書けず、ほかの部屋を借りて仕事場を設け、カフェに出かけて構想を練ったりする。あるいは、生活費を稼ぐために新聞社の依頼で外国へ長期間、記者として出張もする。それが新婚早々のエリザベスには寂しいのだ。彼女自身、結婚前は家庭の幸せから縁遠い孤独な人間だっただけに、仕事を優先させるヘミングウェイとのあいだに生じた亀裂がなおさら心に突き刺さる。しかしヘミングウェイのほうも、妻の自分がいなければ精神的に不安定のはず、とエリザベスは信じて愛情をそそぐ。そんな夫婦の衝突と和解が今までの中心で、これはかなり読みごたえがある。
 全体の流れはおおむね、ヘミングウェイの実人生に沿って書かれているようだ。ということは、たぶん…でしょうね。