ニューヨーク・タイムズ紙のベストセラー、Paula McLain の "The Paris Wife" をやっと読みおえた。例によってまずレビューを書いておこう。
[☆☆☆★★] 「パリの妻」とは、
ヘミングウェイの最初の妻のこと。この妻と
ヘミングウェイの出会いと別れ、みじかい後日談を描いたのが本書だが、2人の関係が
破局へと向かいはじめたあたりから圧倒的に目が離せなくなる。本質的にはメロドラマだ。出会いから結婚までの甘美な
恋物語、闘牛や釣り、スキーといった「
ヘミングウェイ的なシーン」がちりばめられた幸福な結婚生活。やがて訪れる苦しい三角関係、離婚。その流れの中で妻が
ヘミングウェイをいかに愛していたかが痛いようにわかる瞬間があり、胸を打たれる。タフガイなのに心は迷い、「繊細で強靱」、「比類なき友人で
下司野郎」だった
ヘミングウェイの真の姿をすべて理解したうえで、自分もふくめて4人の相手と結婚した
ヘミングウェイを出会いの瞬間から彼の死まで一生愛しつづけた妻。
第一次大戦後のパリを主な舞台に
ヘミングウェイの雌伏時代を支え、やがて糟糠の妻になるはずだった妻。
フィッツジェラルドや
ドス・パソスなど
文人たちとの交流、『われらの時代に』や『
日はまた昇る』など初期作品の成立事情といった裏話的な興味もあるが、何の予備知識がなくても
ヘミングウェイのファンでなくても、とにかくこの妻の純粋な愛情にだけは大いに感動することだろう。英語は知的ながら適度の感傷も汲みとれる文体で、2人の世界をよく反映している。