ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

“The Memory of Love”(2)

 昨日のレビューにも書いたように、これは表面的、現象的な題材としては「メロドラマそのものだ」。横恋慕、失恋、不倫。タイトルからして甘ったるい恋愛小説を連想してしまうが、それはまあ、ぼくのような文学ミーハーを引っかけようという計算が働いているのかもしれない。
 むろん感傷も認められるのだが、それを適度なものに抑えているのが何度も言うように、まず static な文体である。ついで、「折り目節目の事件を回想や第三者の報告など、間接話法によって紹介する手法」。3人の中心人物にそれぞれ、人生の転機となるような出来事が起きるとき、それを当事者が実況中継するのではなく、あとからふりかえったり、現場から離れたところにいる人間同士が話し合ったりしているうちに、ああ、そういう大きな事件があったんだな、と次第にわかってくる。これも感傷を抑えるものだ。しかも「間接話法」であるだけに、いっそうしみじみとした味わいになっている。
 とはいえ、以上の工夫だけなら本書はせいぜい佳作どまり。それが秀作たりえているのは何と言っても、個人の恋愛に国家の歴史や運命が重くのしかかってくるようすを見事にドラマ化した点にある。決して目新しいアプローチではない。が、雑感にも書いたシエラレオネにおける「1968年の軍事クーデター、1991年の内戦開始、1999年の和平合意という大きな流れ」を考えながら本書を読むと、恋愛が深化するためには、もしかしたら、戦争に代表されるような個人の領域を超えた悲劇が必要なのかも、とさえ思えてくる。
 ともあれ、これは「静かな愛の回想に始まり…最後はまた静かに愛の思い出へと戻っていく」作品である。ぼくのような感想だけでなく、読者はそれぞれ自分の経験を思い出しながら、愛の意味について考え直すことだろう。