ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Sarah Winman の “When God Was a Rabbit”(2)

 このところ体調不良につき、カバーから軽い読み物を期待して読みはじめた本書だが、第1部は大いに満足。何度かプッと噴きだした場面もあり、ぼくはこういうわかりやすいスラップスティック・コメディーが大好きだ。
 その愉快さたるや、はて話の方向はどうなるんだろう、と首をかしげたくなるほどで、それを「支離滅裂に近い」とか「破天荒」と評したわけだ。とにかく、すぐれたコメディーには爆発的なエネルギーが必要で、それが見る者、読む者に活力を与えるというのがぼくの持論。ビリー・ワイルダーの映画が典型例である。本書の第1部はワイルダー作品ほどではないにしても、型破りで活きのいい笑いを楽しむことができる。
 問題は第2部だ。これをどう評価するか。好みの分かれるところだろうが、「テーマが収斂したぶん、話が四方八方に広がる破天荒な面白さが影を潜めたのは残念」というのがぼくの結論。ネタをばらすわけにはいかないが、要するに第1部と違って結末が見えるのだ。痛ましい悲劇が起きるものの、ページ数から言ってこのまま終わるわけがない、とつい思ってしまい、事実その予感は的中する。
 ただ、破天荒にも見えた前半のエピソードが後半の布石となっている構成は見事だし、本書がイギリスでベストセラーになっているのはたぶん、これが「家族愛と友情のすばらしさを描いた心温まるヒューマン・ドラマ」だからだろう。この点を高く評価する立場があっても当然なので、結局、「好みの分かれるところ」だと思う。
 それにしても、タイトルにかかわるウサギのゴッドくん、主人公の Elly にだけ人間の言葉を話すというユニークな設定にしては、あっさり死んでしまったのが残念。その後、キリストなみに復活を遂げ…おっと、ネタをばらしてはいけない。まあ、その「死と復活は、彼女(Elly)の人生を予言・象徴するものだったのかもしれない」というのが順当な解釈だと思う。しかしながら、もっと出番が多くてもよかったのではないでしょうか。そうすると、内容とタイトルの整合性も生まれたはずだが、今のままでは奇をてらったタイトルにすぎないような気がする。